人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記182

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(人名はすべて仮名です)
・4月13日(火)晴れ
(前回から続く)
「そういう具合に男性患者は入院という環境では性分が拡大されたかたちで現れているようだが、単に接している時間が長いからかもしれない。女性患者は日頃からこの人はこんな感じなんだろうな、という風に見える。しかし女性患者同士では寝室も同室だったり入浴も女湯なわけで、たとえば家族の話題をするとしても男同士、女同士、男女混合では当然ニュアンスが異なってくる。性に触れる話題ならばなおさらだ」

「ヘルパーさんが解錠するのを待って入浴、今日は仲村画伯に先を越される。湯上がりに一服つけて、壁に貼られている予定表を見ると、・16(土)タジマ、・19(月)ナカムラ、・21(水)クイセ、・23(金)シミズ、・24(土)カネダ、・28(水)マツモト。来月をめくると、・5(水)アツミ、6(木)タキグチ、と記入してある。退院予定日だ。未定だが勝浦くんもゴールデンウィーク明けに退院を希望だった。大体三分の一の人が入れ替わるのだろう。どの人に聞いてもだいたい入院決定後病床空きができるまで一か月前後待たされている。中里さんや尾崎さんに続いて第三病棟で待機している入院済みのアルコール科患者もいるだろう」

「夕食までは図書室から借りてきた『ハックルベリ・フィンの冒険』を読む。新潮文庫村岡花子訳。学生時代に岩波文庫の西田実訳で読んだが死体を発見する場面しか憶えていない。あとは逃亡奴隷を物語上どう処理するかと思ったら所有者死亡で自由放免だった肩透しとか。現行版の角川文庫の大久保博訳が最新の校訂版テキストからの全訳で最良だろうが、それでもこの小説を日本語で読む読者に楽しませてくれるかとなると難しい。『緋文字』、『白鯨』、『ハック・フィン』は何度読んでもよくわからない」

「夕食後に服薬、お茶を飲んでいたら女性たちが、冬村師匠退院したらどうなっちゃうのかしらね、冬村さんも××さんから引き継いだって言ってたわよ、と、この席を指す。そうよ、佐伯さんが引き継げばいいのよ、きっちりしてるし、よく気がつくし、言いたい事ははっきり言うし。前々からことあるごとに出てくる話題だ。お茶を飲みくだしながら、ジェスチャーで勘弁してくださいよ、と仕草をして薬袋を所定の箱に捨てて、そのまま自分の部屋に戻った」(続く)