人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記242

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(人物名はすべて仮名です)
・5月17日(月)晴れ
(前回より続く)
「勝浦くんの退院前にもうこの四床部屋は二床は空いていたのだから、吉村くんと柴田くんを移室させることはできたはずだ。病院側で勝浦くんの退院までそうしなかったのは人間関係のトラブルを配慮したということだろう。吉村くんと同室になってしまったので母教会の話題は避けられず、一応こちらも籍はあるから信徒同士なので吉村くんの献身生活の話を嬉々として聞かされる。毎朝四時半に起きて聖書を読むのが日課という。あちこちに付箋が貼ってあり、びっしりと書き込みがしてある、赤ん坊より重い最大版型の聖書を取り出してきて嬉しそうなので、母教会では佐伯家長男というだけで知りもしない信徒から信仰の兄のように思われているんだな、とゾッとする」

「いつの間にか九時近くになっていたので吉村くんの信仰告白は中断してもらいデイルームに就寝前薬飲みに行く。一服していると大芝くんもいたのでAA中止でいい?いいっスよ。そこへタイミング良く坂部が入ってきて、AA?行ってもいいよ、とすぐにまとまる。尾崎さん、中里さんも入ってくる。雑談しているうちに中里さんが、勝浦さんと今まで一緒で、大変だったでしょ。そうでもないよ。実は昨日ね、とデイルームの隅に席を移して中里さんから話を聞く。昨日携帯電話返却の四時ぎりぎりに滝口さんからメールがあって、自分から連絡取れるのは次の朝だし、もう大変だったのよ。こちらは部屋で『赤頭巾ちゃん気をつけて』を読んでいた頃だ」

「勝浦くんは中里さんをつかまえて、滝口さんが来れないかもしれないって言うのは自分だけじゃ来ないつもりなんだ、佐伯さんの迎えには来るんだって嫉妬と妄想で錯乱状態よ。それで話すのは自分と自分の都合ばっかり。どんな育ちか知らないけど、あれじゃ誰にも相手にされないわ。通りで夜、口数が少なかった。寝る前におれから、短い間だったけどありがとう、と声かけたけど返事なかったし。それって立場が逆じゃない?佐伯さんに女みたいにべったりで、男同士でも嫉妬するタイプよ。私前に言ったじゃない、佐伯さんと滝口さんと勝浦さんは三角錐だって、三角形じゃないのよ。彼はまともな恋愛経験ないんじゃないかな、別れた二人の奥さんもデリヘル嬢だっていうし。それもどこまで本当だか!と中里さん」
(続く)