人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(再録/1) 江戸川乱歩の功績と大罪

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ぼくも「怪人二十面相」シリーズ、というかポプラ社の少年少女向け江戸川乱歩(1894-1965)全集が小学校中学年の愛読書で、図書室・図書館から借りて全巻読破したものです。乱歩が亡くなった時、関係者みんなが胸を撫で下ろした、とそのひとりが書いています。性格は貪欲で狡猾、新人潰しばかりか盗作・代作(少年探偵団シリーズも乱歩の真作は最初の3作「怪人二十面相」「少年探偵団」「大金塊」だけ、8作あたりまでは原作を書いて代作者に任せ、残りは全部編集者と代作者任せ )、とにかく金に汚くプライド高く傲慢で打算的エゴイストであっぱれな人だったのが複数の証言から浮かんでくる江戸川乱歩です。代作者もほぼ特定しています(大人向け作品にまで代作者を使っています)。
ぼく程度の一般読者でも文献をさらってみただけで呆れるほどのエピソードが目に触れましたが(雑誌の記事で「江戸川乱歩・作品と生涯」という題目で書いた時に調べました)、やはりいまでも文庫版で全集が出て、絶版作品はほとんどないロングセラー作家だからか、乱歩のこすい世渡り上手を軸とした評伝は書き手がなく、ごく尋常な伝記すら出ていないのはやはりどうしてもそうした面に触れずに評伝が成り立たないからでしょう。
しかも現在でも江戸川乱歩名義で代作(「十字路」他)も翻案(「火縄銃」「三角館の恐怖」他)も盗作まがいのものまで版を重ねている。ブランドなのです。善かれ悪しかれ乱歩、松本清張横溝正史(リバイバルとして)といったスター作家がいないと業界そのものが不景気になるし、世代を越えて小学生まで愛読しているものを偶像破壊するのははばかられる。そういう事情なのでしょう。
ただし乱歩の場合は実力が伴ってこそでした。乱歩のデビュー当時の探偵小説の水準は呆れるほど低く、謎の構成にしても小説としての魅力も読者を満足させるものではなかった。そこに「二銭銅貨」「心理試験」「屋根裏の散歩者」などの革新的な作品でたちまち人気作家となった。
悪人(?)なのがそんなに悪いことかなあ、と乱歩の場合は思います。だいたい新しいジャンルを根づかせた人というのは手段を選ばず、または狡猾に成り上がることでジャンル自体を確立し普及させたのです。乱歩が素朴なお人好しの善人だったらあれだけの業績はなし得なかったでしょう。(続く/7月25日初稿)