人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

わびしい食卓(日記・6月22日)

一人暮らしの自炊は生鮮食品では割高なので朝はチーズとベーコンのサンドイッチに粉末ポタージュ・スープ、バナナ1本(毎日は飽きる)。昼はご飯に味噌汁、漬物、納豆(毎日は飽きる)か缶詰。夜はとにかく麺類。順番が替ったり手抜きはあっても凝ることは決してない。
病状が悪い時には1週間くらい絶食、食欲も咀嚼力もなければ気力もない。それを思えば食事している限り身体症状で緊急入院という事態には至らないだろう、と自分を見つめるような気持で食べている。
かつて家庭を持っていたり、入獄したり入院を繰り返したりしたせいで舌が健康第一になってしまった。肥えた、とは言わない。健康を保ち、かつ飽きない献立。豪華ではないが質素でもない。調査によると糖尿病や高血圧の受刑者の大半は快癒するという。臭い飯を食べた者として納得する。
餃子が食べたい、と無性に思うことがある。ヤキトリならトリ皮、ホルモンなら何でも。中年男として真っ当だと思う。
夕食後にアイスクリーム、夜食に豆腐1丁、これは飽きない。アイスクリームは「スーパーカップ」1個、豆腐は贅沢は言わないが絹ごしの充填豆腐は避ける。麻婆豆腐にはいいが冷奴にも湯豆腐にも向かない。ぼくは木綿豆腐が好きだ。当り外れも少ない。
加齢とともにゴールデン・バットや安物白ワインと同様、木綿豆腐への愛着は自然界への感謝のように染みるようになった。バットの生産再開は8月上旬。代替で「わかば」を喫っているが零落したように感じる。中学時代の同級生夫婦の店に買いに行ったら「週に1カートンしか入荷しないから取り置きしといたよ」と出してきてくれたのも零落を感じる。
ゴールデン・バットには詩があるが「わかば」には詩を感じない。主治医に断酒を命じられているので白ワインは断ち、これなら酒じゃないだろうと梅酒を飲んでいる。子供の飲み物という感じしかしない。
バットは西脇順三郎、白ワインはリチャード・ブローティガン(躁鬱)。豆腐といえば敗戦末期に一人暮らしのアパートで餓死したダダイストの作家、辻潤(躁鬱)が晩年のインタビューで「豆腐は好きだ。ただし薬味も」わびしい。
石田波郷の復員直後の句、

・豆腐得て田楽となすにためらふな

もいい。別れた妻はこの句にはいつも腹を立てていた。「誰に命令してるのよ!」
命令ではないと思うよ、ゆきこさん。