人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画「チョコレート工場の秘密」

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今回は8月10日、日本テレビ21時~23時放映「チャーリーとチョコレート工場」(2005年米/監督=ティム・バートン、主演=ジョニー・デップ)について。日本で翻訳された最初の訳題が「チョコレート工場の秘密」なのだ。昭和53年(1978年)だった。筆者は中学2年生で、ジュヴナイル(児童書)を図書館で借りるのは少し恥ずかしかったが、著者がロアルド・ダールとなればそうはいかない。ダールの新作!

イギリス作家のロアルド・ダールは第二次大戦中の空軍従軍体験を描いた短編集「昨日は美しかった」(深町真理子訳)でデヴューした戦後文学者だったが、イギリスでは純文学とミステリ、SFの境目がないのが特徴で、これはアメリカでは考えられない。イギリスではドイルやクリスティは探偵小説で爵位を受け、最近ではロック・ミュージシャンまで拡大されているくらいで、大衆文化にも一定の敬意は払われているのだ。ダールから話が逸れた。

ダールがイギリスを代表する短編ミステリ作家になったのはアメリカの探偵小説雑誌「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の年間グラン・プリに選出されてからで、「おとなしい凶器」「南から来た男」などは戦後ミステリ短編を代表する傑作と言える。短編集「あなたに似た人」(田村隆一訳)、「キス・キス」(開口健訳)は70年代にはすでに古典という定評があった。

しかしはっきり言ってダールの面白味は中学生ではわからない。20代でもまだ駄目で、それなりに人生経験を積み社会・歴史・死生観に達した読者でなければ味わえない。陳腐な言い方だが、大人の読み物なのだ。ダールは「ブラック・ユーモア」の作家として知られるが、イギリスではハックスレー、ウォー、グリーン、コリアーなど皮肉(諷刺とはやや異なる)の文学者の系譜がある。ダールはその粋とも言うべき作家であり、大人向けの長編を書けばあの陰惨な階級闘争小説「コレクター」と似通ったものになったに違いない(ダールが長編小説を書かなかったのはまさにその点だったと思われる。抽象度の高い短編小説ならともかく、長編小説は社会性を抜きには成立し難い)。
だがファンタジー性の高いジュヴナイルならダールのような資質の作家でも長編が書け、しかも大人の鑑賞に耐える(むしろ大人ほど面白い)ものになる。

もう字数がない?…映画?抱腹絶倒!最高!でした!