人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

詩と童話・その他創作

新・偽ムーミン谷のレストラン(65)

案外手間はかからなかったな、とムーミンパパはレストランのドアをくぐり、ムーミンとムーミンママを振り返りました。ムーミン、実は偽ムーミンは朝の居間の会話中、レストラン行きに危険を察してトイレに立ち、本物のムーミンと入れ替わっていたのです。 偽…

新・偽ムーミン谷のレストラン(64)

確かに、ここはあらゆる点でぼくの知っていたムーミン谷と変わりないように思える、とスナフキンは言いました。ではぼくの感じるこの強烈な違和感はなんだろう。 きみ、ムーミンが毛むくじゃらなのははっきり違うような気がするからまだいい。ミイと呼ばれる…

新・偽ムーミン谷のレストラン(63)

それで話っていうのはなあに、と偽ムーミン、みんなに聞かれちゃまずいことなの? まずいかどうかもまだわからないんだ、とスナフキン。だけれどなるべく大事にならないように確かめてみたい。もちろんひとりだけで調べることもある程度ならできる。でも一人…

新・偽ムーミン谷のレストラン(62)

われわれのことですよ、とスナフキンは慎重に言葉を選ばなくてはな、と意識しながら答えました。ここにいる連中はみんな猜疑心が強い。一見とぼけたふりをしているが油断させておいて内心では言葉尻をとらえるのに虎視眈々としているのだ。味方など誰もいな…

新・偽ムーミン谷のレストラン(61)

第7章。 ところで、とスナフキンは唐突に尋ねられました。思い出したようにしかわれわれの話が続かないのはなぜかね? さあ、とスナフキンは返答に窮しました。そして一瞬考えて、努力が足りないんじゃないですかね、と答えました。口にした直後すぐにこれで…

新・偽ムーミン谷のレストラン(60)

国際法に照らしてみれば、とスナフキンは抗弁しました、私は私の国の法律によって審理されるのが正当な手続きです。私はそれを要求することができる。そもそもそれ以前にそれを怠っていたあなた方の落ち度に重大な問題があります。まるで私が戦時下における…

新・偽ムーミン谷のレストラン(59)

--入りたまえ、と部屋のドアを半開きにして顔をのぞかせた男はスナフキンをうながしました。スナフキンは腰かけから立ち上がりましたが、男がドアを半開きのまま部屋の奥に戻ったのに気づいて脚をすくませました。ドアはスナフキンが通れるほどには開いて…

新・ムーミン谷のレストラン(58)

まず定義から入ると、とムーミンパパは言いました、「くじ」とは勝ち負けや順番の割り当てを、結果があらかじめわからないように選択をさせることか、またはその方法を言う。くじは参加者に見えないようにされていてもいいし、また選択後に無作為に割り当て…

新・偽ムーミン谷のレストラン(57・再録)

ムーミン谷近代美術館所蔵映画全目録。『愛と死をみつめて』『赫い髪の女』『赤いハンカチ』『秋津温泉』『網走番外地』『天城越え』『嵐を呼ぶ十八人』『ある殺し屋』『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』『伊豆の踊子』『一心太助』『刺…

新・偽ムーミン谷のレストラン(56)

・ムーミン谷の二人の長老賢者の対話 (ヘムレンさん) この谷の法律は誰もが知ることはできない。それは誰しも例外なく適用されるわれわれを支配する少数の議会の秘密で、それらが確実に守られているのは疑えない。とは言え知りもしない法律に支配されている…

新・偽ムーミン谷のレストラン(55)

…………………………… まもなくスナフキンは黒い丘のほうへ急ぎました。牧場の後ろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は北斗七星の下に、ぼんやり普段よりもつらなって見えました。 スナフキンは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼっていき…

新・偽ムーミン谷のレストラン(54)

スナフキンが着いたのは、夜も更けてからのことでした。谷は深い雪の中に横たわっていました。谷の両側にそびえるはずの山はまったく見えず、霧と夜の闇に包まれていました。街の中心地を示すかすかな灯りさえなく、スナフキンは長いあいだ国道らしき道から…

新・偽ムーミン谷のレストラン(53)

こういうことがたびたび起こるから定期的な測量が大切なのだ、とヘムル署長は主張しました。しかし谷には測量を学んだ者がいない。だから以前にも測量士を谷の外から呼んだことが数回あるし、今も到着を待っている最中だ。なのに依頼した測量士がどいつもこ…

新・偽ムーミン谷のレストラン(52)

点呼は済んだ、とムーミンパパは一服しようとふところのパイプを探りました。しかしムーミン谷にこんな所があるとはな。北東と北西に山、南東に無邊の平原、南西に海、中央には川と大体の地勢は構えた谷だが、生まれ育ってこの歳まで知らない場所がまだあろ…

新・偽ムーミン谷のレストラン(51)

第6章。あけましておめでとうございます。 ヘムル署長はぽかんと口を開けました。うわ驚いた。これはいったいどういうことかね。確か昨年の10月上旬に(50)第5章完。おしまい。と話は終わっていたはずではないか。この2か月間の落とし前をどう着けるというの…

偽ムーミン谷のレストラン・最終誡(50)

もういい加減に決めてしまおうではないか、と暖炉の中に身を潜めていたムーミンパパが現れて全員に呼びかけました。要するに誰が私を殺害して何食わぬ顔でいるってことだろう?こういう場合は独裁制であろうと共和制であろうと個人の責任を問わないで審判を…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(49)

するとそれまで自分からは何も話す様子のなかったちびムーミンが…………、とつぶやきました。ん?今何を言ったのだ?とヘムル署長。どうも「…………」と言ったみたいですね、とスナフキン。 君のような不審者には訊いておらん、とヘムル署長は冷たく言うと、比較的…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(48)

ちびムーミンはうなづきました。一堂はいっせいにざわめきましたが、それでは問いに対する何の答えにもなっていないのに気づくのには一瞬もかかりませんでした。しかも気づいてみれば最初から、何を訊かれてもこのムーミン族の子どもはうなづく以外の応答を…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(47)

とにかくこれではいつまで経ってもらちがあきません、とスティンキー。生きているのか死んでいるのか、事件かそうではないかもしれないようなことを問題にしていても仕方ないんじゃありませんか? 確かにそれが正論かもしれん、とヘムル署長、現状、これは事…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(46)

そこまでだ、動かないでいただきましょうか、と自称スナフキンは両手にコルトを構えて一堂をにらみつけました。あんたたちから好き放題に指図されるようなおれじゃない。結局あなたがたは事件のすべてを私の仕業に押しつけて一見落着させるつもりだ。違いま…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(45)

スナフキンが谷に着いたのはつい数時間前のことで、この土地で自分を待ち受けている運命は考えてもいませんでした。スナフキンはいつでも風に流れてたどり着いては風に流れて旅に出るのが流儀で、それがあまりにくり返しくり返し果てしなく長い旅路だったた…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(44)

その孤児の少年、というよりまだ幼児と児童のさかいめあたりの年頃ですが、とにかくその男の子は谷の住民の誰も知らない男に手を牽かれていました。もちろんその孤児を見るのも初めてでしたが、ひと目で親子ではないとわかるのは男はヒューマノイドトロール…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(43)

昔むかし、ムーミンパパがまだただのムーミンだった頃……ムーミンとは代々ムーミン族に受け継がれてきた名前ですが、ムーミンパパは生まれついての天涯孤独の孤児でした。ムーミン族の後継ぎが所有していなければいけないとされるつるぎ、鏡、勾玉の3種の神器…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(42)

やあムーミン、と背後から呼ばれた声にムーミンパパは意表を突かれました。それまでムーミンパパは突然周囲に現れた花盛りの景色に、これもレストランの用意した何かのしかけなのかと妙に感心していたところでした。知っているぞ、とムーミンパパは思いまし…

偽ムーミン谷のレストラン・誡(41)

第5章。 レストランの床にステッキが倒れ、シルクハットがひらりと落ちると床の上を転がってどこかのテーブルの下に潜り込みました。レストランの中の全員が----つまりムーミン谷の住民全員のうち、 ・ここにいる人全員、と ・ここにいない人全員 がハッ…

偽ムーミン谷のレストラン・改(40)

お話中たいへん失礼いたしますが、とウェイターがいつの間にかムーミンパパたちの背後に現れていました。そろそろご注文はお決まりでしょうか? 今確かに失礼と言ったな、とムーミンパパが鬼の首をとったかのように詰問しました、ああ失礼だ。実に大変失礼だ…

偽ムーミン谷のレストラン・改(39)

カバの存在は非常に興味深い、トジャコウネズミ博士が言いました、肉質がもっともヒトに近いことで栄養価の高いブタに似ているが実際の肉質は牛肉に近く、さらに種としてはクジラに近い種族であることも知られている。ならば家畜化して食肉にできそうなもな…

偽ムーミン谷のレストラン・改(38)

このカバ!と花嫁のフローレンまたはノンノンこと現在のムーミンママは罵りました。カバ?それが何だというのだ、とムーミンこと現在のムーミンパパ。まあそうだよな、と親友ロッドユールは思いました。こういう話を知っているかな?と平然とムーミンパパ、…

偽ムーミン谷のレストラン・改(37)

そうだ、このレストランを建てたのは単に私たちの合同披露宴のためではない、とムーミンパパ(当時先代ムーミン)はロッドユールに目配せしました。ロッドユールは唐突に同意を求められても即座に返答できませんでしたが、ムーミンパパとのつきあいではこんな…

偽ムーミン谷のレストラン・改(36)

集中豪雨でそこそこ気温は下がったが、やはり湿度は高いな、とムーミンパパは換気扇を回すよう命じるとパイプを手にとり、例えばこの中に3つの文明が結びついている、と煙草の葉を詰めながら講釈しました。まず自然薬物学、いわゆる本草学の文明。それから喫…