人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#詩

集成版『NAGISAの国のアリス』第一章

(1) 10歳のアリスはお姉さんのロリーナ(13歳)と妹のエディス(8歳)といっしょに川のほとりに座り、ドジソン先生のお話を聞くのが好きでした。ドジソン先生は当年とって30歳、男ざかりの数学の先生で、年ごろの男性にはよくあることですが同年輩の男も苦手なら…

集成版『夜ノアンパンマン』第八章(完)

(71) 第八章。 今日もこれから降りかかってくるばいきんまんの策略などいざ知らず、アンパンマンはジャムおじさんのパン焼き場に入っていきました。ジャムおじさんおはようございます、やあアンパンマンおはよう。おはようアンパンマン、とバタコさん、わん…

集成版『夜ノアンパンマン』第七章

(61) 第七章。 不安な夢から目覚めると、ばいきんまんは自分が一個の巨大な乳頭になっているのに気づきました。普通起きると乳頭になっているなどということはほとんどありませんから、ばいきんまんもこれは悪夢の続きか、何かの冗談かと思いました。冗談だ…

集成版『夜ノアンパンマン』第六章

(51) 第六章。 アンパンマンはベッドからそのまま床に転げ落ちたのではなく、足の足の方を下にして滑り落ちるように転がったので、ベッドの縁に支えられて斜めに転げ落ちたのでした。どうやらこの感触は、さっきまで考えていたようなスマキのような状態では…

集成版『夜ノアンパンマン』第五章

(41) 第五章。 困ったことになったなあ、としょくぱんまんは改造カーナビ画面とにらめっこしながら思いました。その時しょくぱんまんの表情はいわゆる渋面を浮かべておりました。さてこの「渋面」ですが、木々高太郎という小説家が70歳の晩年(昭和42年)に刊…

集成版『夜ノアンパンマン』第四章

(31) 第四章。 わかりました、としょくぱんまんはあまりの話に腕組みをしそうになりましたが、スマートなぼくには似つかわしくないな、と思い額に手を当てました。少しうつむき加減のそのポーズは山型パンの輪郭にばっちりきまっていたので、こいつこんな時…

集成版『夜ノアンパンマン』第三章

(21) 第三章。 地獄と現実の地続きのような夢から目醒めると(アンパンマンはいつも現実的、または地獄の夢しかみません。かまどから生まれてきたからかもしれません)、しばらくしてアンパンマンは自分が乳頭になっているのに気づきました。それまではどこか…

集成版『夜ノアンパンマン』第二章

(11) 第二章。 アンパンマンは唐突、かつあまりにも飛躍したジャムおじさんの発言に、ジャムおじさんはどうかしてしまったのではないかと思いましたが、考えてみればこれまでもジャムおじさんは極端に感情や行動の振幅が激しく、かつまた自分の固執する信念…

集成版『夜ノアンパンマン』第一章

(1) 第一章。 あんパンが初めて製菓店の店頭に並んだのは1874年とされており、翌1875年(明治8年)4月4日には花見のために向島の水戸藩下屋敷へ行幸した明治天皇に山岡鉄舟が献上し、お気に召された天皇によりあんパンは宮内省御用達となりました。以降、4月4…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第八章(完)

(71) 第八章。 近代西洋文化における音楽の把握は通常メロディ(旋律)、ハーモニー(和声)、リズム(拍子)の3要素の組み合わせとして把握されます。和声と旋律、拍子が有機的に複合するには旋律をなすモード(もしくはスケール、音階)が一定の規則に基づいていな…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第七章

(61) 第七章。 マイメロからの報告は毎回ハローキティのお店の仲間たちを落胆させました。どうせマイメロだから、と過大な期待は持たないようにしても藁にもすがりたい気持の時にはせめて希望のかけらだけでももたらしてはくれないか、と思うのが人情という…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第六章

(51) 第六章。 初めて車輪にペダルをつけた自転車の一般販売はフランスで1861年、ペダルによって後輪をチェーンで回転させる現在のような自転車が発売されたのはイギリスで1869年のことでした。それらに先立ち、直接足で地面を蹴って進ませる自転車の元祖が…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第五章

(41) 第五章。 この町でうっかりすると失ってしまうのは、ハローキティのリボンに限ったことではありませんでした。怪奇現象に法則性を求めても仕方ないことですが、社会のルールでは重要なものほど法的な所有権が厳重化されているものです。たとえば親権な…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第四章

(31) 第四章。 いけない、エゴサーチを済ませておかなくちゃ、とミッフィーちゃんははたと思い出しました。毎日の仕事の前にはそれを済ませておかないと、彼女は落ちつかないのです。ただし自分でやるのは面倒なので、職務上は部下である友人や妹にやらせる…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第三章

(21) 第三章。 私が10歳で、私たちの町のラテン語学校に通っていた頃の体験から話を始めよう。当時のいろいろなものが私に向かって匂ってくる。暗い路地、明るい家や塔、時計の音、人の顔、住み心地のよい温かな快適さに満ちた部屋、秘密と幽霊に対する深い…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第二章

(11) 第二章。 そろそろ出ないとヤバいんじゃない、と、それまで黙ってちびちびとオレンジジュースをすすっていたウインがボソッとつぶやいたのとハローキティのお出ましがほぼ同時だったので、おしゃべりに興じていたミッフィーたちはぴたり、と黙り込みま…

集成版『戦場のミッフィーちゃんと仲間たち』第一章

(1) 第一章。 まったくあの女ったら!とミッフィーちゃんはアイスピックをふるいながらバーバラにこぼしました。あいつらなんかみんな私たちの商売を真似てるだけじゃないの。おかげでうちの店も閑古鳥つづきじゃ、上がったりもいいところだわ。ねえアギー?…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第八章(完)

(71) 最終章。 チャーリー・ブラウンは自分を、もう長いこと泥の中を匍匐前進しているだけのアメーバか繊毛虫のように思いました。アメーバやゾウリムシ、また繊毛虫などの単細胞生物(たんさいぼうせいぶつ)とは、体が複数の細胞からできている多細胞生物に…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第七章

(61) 第七章。 嵐の吹く暗い夜でした。私たちは暖炉の前でくつろぎながら、そろそろ晩酌にしようかとウィスキーのための氷を割ったところでした。夜の静寂が嵐にかき乱されていても、暖かな室内では吹きすさぶ嵐すら静寂の一部でした。私たちは退屈していた…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第六章

(51) 第六章。 スヌーピーはついに頸椎を掻き切ると、握りつぶしたトマトのように溢れだす自分自身の血だまりの中に倒れ込みました。とはいえもともと犬は座高が低いので、倒れたと言っても座りこんだ程度にしか見えません。あんな不器用なやつだったかな、…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第五章

(41) 第五章。 やれやれ待たされたよ、とチャーリー・ブラウンはため息をつきました、ようやく主役のぼくたちの出番だ。 主役って?と、スヌーピーが歯をむき出します。これはスヌーピーが相手をせせら笑う時特有のジェスチャーでしたが、チャーリーはあえて…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第四章

(31) 第四章。リラン・ヴァン=ペルト。 ・リラン! 無理に呼び起された不快から、反抗的に、ちょっとの間目を見開いて睨むように兄の顔を見あげたが、すぐまたぐたりとして、ズキンズキンと痛むこめかみを枕へあてた。ぼくは、腹が立ってならなかったのだ。…

『偽ムーミン谷のレストラン』疾風怒涛メーデー編

(-5/1) ところで集団行動と言ってもやる気のない者とやる気のある者の見分けがつかないのに数だけは必要という場合がある、とムーミンパパは言いました。普通集団行動というのは目的が一致しなければ成立しないものだ。 ほほう、とスノークは先をうながしま…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第三章

(21) 第三章・疾風丑の刻詣りの巻。 あらヤだわ、とみさえはひまわりの添い寝から起き出しながら柱時計を確かめました。まだしんちゃんの帰りまで買い物行ってくる時間はあるかしら。柱時計はひろしが会社の後輩の結婚式の引き出物でいただいたものでした。 …

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第二章

(11) 第二章。 スヌーピーが引き取られてからブラウン理髪店の庭の居心地の良い小屋に落ち着くまでには、二か月以上の内装工事がかかりました。その間チャーリーはどれだけパインクレストじゅうを買い物してまわらなくてはならなかったでしょう。スヌーピー…

集成版『荒野のチャーリー・ブラウン』第一章

(1) 第一章。 ある暗い嵐の夜でした。 水皿の水にぼくのかおがうつっている。ぼくはのどが渇いているけど、この水をのみほせばぼくのかおは見られなくなる。ならぼくを見ているほうがいいや。そうナルシシストの小型ビーグル犬は考えると、そろそろおやすみ…

集成版『偽ムーミン谷のレストラン』第八章(完)

(71) 最終章。 ウェイターは依然マイクを持ったまま、服装も燕尾服のままで壁ぎわに立っていました。さきほどまで歌姫が立っていた壁の隠し舞台には無人のまま照明が照りつけていました。それは客席に居合わせたムーミン谷の人びとが自分以外のみんなはいっ…

集成版『偽ムーミン谷のレストラン』第七章

♥ (61) 第七章。 ムーミン谷にレストランができたそうだよ、とムーミンパパが新聞から顔を上げると、言いました。今朝のムーミン家の居間には、 ・今ここにいる人 ・ここにいない人 のどちらもいません。いつもならムーミン谷の住民はあれやこれやの口実をた…

『偽ムーミン谷のレストラン』番外令和編

(60)+ A...さんからの私信。 「仕事上での出来事などをSNSにアップしたことが知れたら、懲罰の対象となることが今朝職場で言い渡されました。どのブログに何を書いたか振り返る間もないので、急いで削除しましたのでお知らせします。 いまはパニクっていま…

集成版『偽ムーミン谷のレストラン』第六章

(51) 第六章。 ムーミン谷近代美術館所蔵映画全目録。『愛と死をみつめて』『赫い髪の女』『赤いハンカチ』『秋津温泉』『網走番外地』『天城越え』『嵐を呼ぶ十八人』『ある殺し屋』『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』『伊豆の踊子』『…