人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2013-01-01から1年間の記事一覧

アル中病棟の思い出33

・3月19日(金)晴れ (前回から続く)(注1) 「読書にくたびれて一服しに喫煙室に向かおうと廊下に出ると、Yくんに煙草一本ねだられる。昨日、一箱譲ってあげて、明日は退院だが彼は外禁だから、買い物ついでに彼の喫っているラーク買ってこようか?と夕方訊いた…

オールタイムベストアルバム500(81~100位)

ついに今回でローリング・ストーン誌のオールタイムベストアルバム500もベスト100までが揃う。区切りのいい数だからこれまでの80作を補完するような20作を期待されるが、実際の結果は、その期待に応えてくれるだろうか。では81位~100位をご紹介する。 81.グ…

アル中病棟の思い出32

・3月19日(金)晴れ(注1) (前回から続く) 「夕食前に入浴。毎日Kくんが佐伯くんが入るならおれも、とついてきて一番風呂を浴びるのも習慣になっている(注2)。『不道徳教育』読み始める。予想以上に歯応えのある批判的資本主義社会学の分析で、富の再分配に対…

オールタイムベストアルバム500(61~80位)

ローリング・ストーン誌のオールタイムベストアルバム500も前回までで60作を数えたが、もうついていけないと思う人も多いのではないだろうか。 このベストアルバム選出を見ると、20位までにロックの大御所や歴史的アルバムが集中してしまい、逆に21位~60位…

アル中病棟の思い出31

・3月19日(金)晴れ (前回から続く) 「Yくんが退院申請の相談してきたのは午後に受診の予定があったからだった。アルコール科は午後はプログラムはなく、みんな部屋で休んで、デイルームには数人しかいない。図書室でウォルター・ブロック『不道徳教育』(原題…

オールタイムベストアルバム500(41~60位)

さて、ローリング・ストーン誌のオールタイムベストアルバム500は、順を追うごとになんでもあり状態を増してきた。ベスト・アルバムやコンプリート・ボックスという禁じ手ありでは事実上アルバム単位の評価を逸脱するも同然だが、アメリカ本国ではシングル盤…

アル中病棟の思い出30

・3月19日(金)晴れ (前回から続く) 「部屋に戻って日記の追記を書き、デイルームに戻るとHAがアメリカに三年間留学、カリフォルニア州立大学医学部を17歳で飛び級卒業、とにわかには信じがたい話を、わざと辺り全体に聞こえるでかい声でしていた。統合失調症…

オールタイムベストアルバム500(21~40位)

この企画はたしか90年代初頭にもやっていた記憶がある。だがその時は年代区切りで70年代は「ジギー・スターダスト」、80年アメリカ発売の「ロンドン・コーリング」を通り、80年代は「パープル・レイン」という調子で、こんなに偏ったものではなかった。 ビー…

アル中病棟の思い出29

・3月19日(金)晴れ 「昨夜は床に入ってしばらく眠れなかった。あの男は凶悪なロシア人ボクサーどころじゃない。ほぼ確実に裏稼業の人間で、シャブ中でホームレスだ。この病院はアディクション専門精神病院でもあるが、身寄りのない精神患者の保護施設にもな…

オールタイムベストアルバム500(1~20位)

アメリカのロック雑誌で屈指の権威を誇る「ローリング・ストーン」誌は現在は日本版も読者を獲得しているが、70年代に日本版が発刊された時は情報格差と日本の読者のあまりにも異なる嗜好からごく短期で廃刊になった。では今は日米でロックに関する嗜好がほ…

アル中病棟の思い出28

・3月18日(木)晴れ (前回より続く) 「さっきA屋に寄った時にジャンプの『HUNTER×HUNTER』とサンデーの『絶対可憐チルドレン』を立ち読みした。数週分空いたが入院中も読めるわけだ。午後の学習はグループワーク。テキスト順とは限らず、今回は第一章。学習室…

西條八十作詞『東京行進曲』

西條八十作詞の『東京行進曲』は昭和四年(1929年)六月に佐藤千夜子の歌で発売され、蓄音機販売台数が20万台と推計されていた当時に25万枚という空前のヒットとなった。これは元々、雑誌「キング」連載中の菊池寛の長編小説を日活が映画化(溝口健二監督)する…

アル中病棟の思い出27

・3月17日(水)晴れ (前回から続く) 「今日は午前も午後も学習プログラムがあったからか早目に寝つく人が多い。それと、KくんはKjさんやTgさんのようなおばあちゃんには優しく話を合わせてあげる意外な面があるのがわかった。あながち話を合わせているだけで…

通院日記12月8日(月)曇り

つまらなくもないが楽しくもない通院の日。アベさんの怪我で引き継ぎも遅れるから、年内と年始の一か月くらい訪問看護が途絶えるかもしれないが大丈夫か訊かれる。今の調子なら大丈夫でしょう、と答える。 一抹の不安もなくはない。緊急入院した三回のうち二…

アル中病棟の思い出26

・3月17日(水)晴れ (前回から続く) 「今週の入浴順は男性が先(注1)で15時半~17時、夕食を挟んで女性は19時~20時半。時間を持て余しているので15時半を待ってさっさと一番風呂。こういう時もKくんは佐伯くん入るのか?ならおれも、とくっついてくる」 「夕…

短歌と俳句(26) 耕衣/六林男/敏雄

戦後俳句の前衛運動を高柳重信句集「蕗子」(昭和25年8月)を起点とし、金子兜太句集「少年」(昭和30年10月)によって定着したとしても、戦前~戦時中からすでに前衛俳句を予期する作風を確立していた俳人たちがいる。それが遅れてきた新興俳句作家である永田耕…

アル中病棟の思い出25

・3月16日(火)晴れ (前回から続く) 「夕方、第三病棟からHA(25歳)とKmさん(男性、異様に眼光が鋭い。一見組関係風)が移ってくる。HAは他にも空いている席があるのに隣にやってくる。彼女がやばい患者なのはこの数日間の観察でわかった。右にKくん、左にHA、…

短歌と俳句(25)高浜虚子/ 斎藤茂吉

現代俳句と短歌には各々指導的俳人・歌人がいた。それが高浜虚子(1874-1959)と斎藤茂吉(1882-1952)で虚子は正岡子規の愛弟子、茂吉は伊藤左千夫経由でやはり子規の孫弟子になる。厄介なのは虚子も茂吉も子規の唱えた写生(リアリズム)を頑として主張しながら…

アル中病棟の思い出24

・3月16日(火)晴れ (前回から続く) 「なにしろ朝あんな騒動があって(注1)ほとんどの人が五時半に起きたままだったし、六時半には普段の起床アナウンスが流れるが、Yくんと朝食まで二時間は眠れるよね、とぎりぎりまで眠る。午前中は外来ミーティング(注2)が…

短歌と俳句(24)五人の戦後前衛俳人

戦後俳句の前衛運動が高柳重信句集「蕗子」(昭和25年8月)が起点ならば、金子兜太句集「少年」(昭和30年10月)が、戦後短歌における塚本邦雄歌集「水葬物語」(昭和26年)と岡井隆歌集「斉唱」(昭和31年)の関係に相当する。重信と兜太の句業、塚本と岡井の歌業は…

アル中病棟の思い出23

・3月15日(月)晴れ 「午前中は学習プログラムなし、午後はヴィデオ。今日は波乱はない。N先生へのメール書き上げて送る。第三病棟から遊びに来たSくんから、あの婆さん隔離室に入れられましたよ、と聞く。ティッシュペーパーの箱の裏に助けて下さい、と書い…

短歌と俳句(23)岡井隆/春日井建

塚本邦雄(1920-2005)の第一歌集「水葬物語」(昭和26年8月)から始まった戦後の前衛短歌運動は優れた新人の登場を次々と促し、特に塚本が寵愛したのが寺山修司(1935-1983)と春日井建(1938-2004)だった。だが寺山は20代のうちに短歌から離れ、春日井は第一歌集…

アル中病棟の思い出22

・3月14日(日)晴れ (前回から続く) 「また老婆が話しかけてきた様子では、今朝には憶えていた昨夜の件をもうすっかり忘れているようだ。相手が同一人物だということも気づいていない。206号室にサトミさんという方がいらっしゃいますよね、私カジイといいま…

短歌と俳句(22)高柳重信/塚本邦雄

今回は戦後俳句・短歌で前衛の口火を切った、高柳重信句集「蕗子」(昭和25年8月)と塚本邦雄歌集「水葬物語」(昭和26年8月)から各々巻頭の一章を紹介したい。共に戦時中弾圧されていた新興俳句・短歌に傾倒した新人の第一作品集で、この二冊は合同で自費出版…

アル中病棟の思い出21

・3月14日(日)晴れ 「病棟は週末外泊で10人にも満たないから朝もせわしない感じがしない。学習プログラムもないので煙草でも喫っているか駄弁っているくらいしかない(注1)。朝刊の書評欄で『失われた天才~忘れ去られた孤高の天才音楽家の生涯』(春秋社、ケ…

無題

毎日身を削るように書いたところでどうせ届いていやしないんだ、と思うと徒労感に襲われる。娘たちのことだ。このまま二度と会うこともないのなら、せめて父親がどういう人間だったかを書き残しておきたい。そんな願いもまったく無駄に終る可能性のほうが高…

アル中病棟の思い出20

・3月13日(土)晴れ (前回から続く) 「晩に、NHKドキュメンタリー『新薬開発の危機』をSくん、Kくんと第三病棟のデイルームで観ていると、70代後半くらいの年配の女性が腰をかがめて(ナースステーションから見えないように)寄ってきて、不運なことにつかまっ…

通院日記12月2日(月)晴れ

クリスチャンにとっては洗礼記念日は第二の誕生日だが、中学二年生(1978年)の九月の第二日曜日だったかな、としか憶えがない。むしろ一生忘れないだろうというのが入獄(2007年5月23日)、今のところ最後の精神入院(2010年12月1日)、そして今ブログ掲載してい…

アル中病棟の思い出19

・3月13日(土)晴れ 「Smくんは妻帯者なので二泊三日の週末外泊だったが今日はもっと多く、病棟は八人ほどになる。昨夜はピクニックと説教、おまけにKくんから強引に第三に一昨日入院してきたIくん(34歳、ドヤ、生保で重鬱と不眠、対人恐怖症)に紹介され(注1)…

短歌と俳句(21)石原吉郎20

詩人石原吉郎(1915-1977)の佳句は「懐手蹼ありといつてみよ」「吊革は手錠のごとく霧の電車」ら傑出句以外も、 ・雲真面皇帝ペンギン夏終る ・無花果や使徒が旅立つひとりづつ ・独立記念日火夫より不意に火が匂ふ ・コップより女したたる暮春かな ・弁明へ…