2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧
今回も解説なしでお送りする。 * 『帰郷』 家に戻った私は、玄関を通り抜けて辺りを眺める。親父の家の古い中庭だ。これは親父の家だ。だがどんな物を見てもみんなよそよそしく、どれもが自分の役目で忙しいという様子だ。私がこの家に何の役に立とう。私が…
筆者が躁状態で幻覚と妄想に陥り、部屋を滅茶苦茶にして(とにかく必要なものだけ持ち、放浪覚悟で逃げ出したかった)、まるで自首したみたいに次の診察日に市の福祉担当者氏に送られ入院したのが一昨年の12月。泥沼の恋愛から逃げたかったのだ、と入院中に気…
珍しく抒情的な佳品。 * 『サーカスの大衆席にて』 もしこうだとする。ひとりの、肺を病んでいるらしい弱々しいサーカス娘が、よろけがちの馬に乗り、飽きることを知らない観衆の前で、鞭を振り回す情け容赦ない親方のために、何か月も休みなしにぐるぐるリ…
○コメントと断片より (1)訳本の書名を一部間違えました。岩波文庫は「カフカ寓話集」「カフカ短編集」、ちくま文庫は「カフカ・セレクション」1~3です。ちくま文庫版は高いですが、長編3冊(各社から出ています)以外のほぼ全短編を収めています。ネット通販…
今夜から連続3晩、フジTV系列で「Rock Movies」と名銘った特集が放映されるそうです。 10/14(日)25:35~28:00 ザ・ビートルズ「マジカル・ミステリー・ツアー」「同45周年記念ドキュメンタリー」 15(月)26:05~ ボブ・ディラン「ドント・ルック・バック」 16…
今回の2篇、ずばり(谷岡)ヤスジ的作品。読めばわかります。 * 『舵手』 「おれが舵手なんだぞ!」と私は叫んだ。「お前が?」と長身を黒い服に包んだ男は聞き返し、手で自分の目をこすった。夢を追い払おうとしている仕草だった。私はこれまで頭上に弱い灯を…
作者ゲイリー・ニューマン(1958-)はイギリスのニュー・ウェイヴ/ポスト・パンク・シンガー、履歴は本ブログ8月2日記事を参照されたい。1979年~80年の2年間だけ全英チャートを席巻した人。この曲は大出世作「幻想アンドロイド」'Replicas'1979の先行シングル…
カフカはフロイトの同時代人でもあるが、被害妄想を作品化したこれなどはやはり医学ではなく文学的アプローチを感じる。 * 『隣人』 私は全く独力で事業をやっているようなものだ。控え室にはタイピストと会計の女子社員、私の部屋には書物机と金庫と会議用…
コメントと断片より (1)パーソナリティ障害は精神医学の領域ではないですが(精神疾患の人がパーソナリティ障害をきたす、パーソナリティ障害が精神疾患の一因になる、というのはあります)-たとえばぼく自身が強迫性・シゾイド性パーソナリティ障害と診断さ…
これもカフカならではの傑作のひとつ。 * 『わかれ道』 私は猫とも子羊ともつかない妙な動物を飼っている。親父の遺産だ。だが私が飼うようになってからこうなったので、それまでは猫と言うよりもむしろ子羊だった。今では拮抗している。猫らしいのは頭と蹴…
○コメントと断片より (1)けっこう低体温ですね。そりゃ37度越えはつらいや。ぼくも20代までは平熱35.5度でしたが、30代になったら36.5度の平熱になりました。どら焼で今夜はしのいで、明日には治っていますように、お大事に。 (2)勝手にご登場いただき事後承…
これも神話もの。芥川的なイロニーがある。 * 『人魚の沈黙』 ユリセスは人魚の歌から身を守るために耳に蝋を詰め、船の机柱に自分を縛りつけた。もちろん誰でも同じことはできただろう。だがそんなことをしてもまるで役に立たないことは全世界の人々がしっ…
10日現在、10月に入ってからテレビで見た映画は7本。本数が多いのでデータは省略する。 ●ヒットマン(米07)-冷戦終結後はスパイじゃなくてテロリスト養成所が旬か、と先日アンジェリーナ・ジョリー主演「ソルト」(米10)を見て思ったが、これも同工異曲なが…
今回は「寓話(寓意)」の概念をめぐる小品二篇。カフカにしては平易な語り口。カフカの小品は芥川的・太宰的と、作品によって異なるが、これらは萩原朔太郎(またはボードレール)のアフォリズムを思わせる。こちらの方面は神話もの同様必ずしもカフカの本領で…
○コメントと断片より (1)難波弘之さんですが、ご本人がフェヴァリットに上げるフレヴィオ・プレモリ(PFM)タイプというとさにあらず、やはりセッションマン的でソロイスト的ではない。ウェイクマンとエマーソンならウェイクマンでしょう。短編小説は学生コン…
今回も神話もの。待機の他に無益な労役がテーマになっている。 * 『ポセイドン』 ポセイドンは机に向って計算していた。すべての海洋を管理することは果しない苦労だった。助手を使おうと思えば、人はいくらでもいた。実際、彼は大勢の助手を使っていた。だ…
なぜ猫の首と呼ばれるのかは判らないが、弟がネットから探してきた図版では、確かにどこか猫を思わせる醜悪な初老の女の首が地中に逆さになっていた。生きている女の首、身体は地中から出てまだ首だけ地中に残しているのは、カッと見開いた眼と半開きの口、…
これも待機と疎外を描いた軽妙な一篇。 * 『試験』 私は召使いだ。仕事のない召使いだ。私は小心者で、でしゃばれない性分だ。他の召使いの仲間にすら入れない。しかしこれも、私に仕事のない理由のひとつでしかない。むしろ関係などないかもしれない。問題…
10月5日はかつて一番愛した女性、別れた妻の誕生日だった。今年はカードも送らず贈り物もしなかったから、まだ娘たちも下校前の早い夕方に、留守番電話に短いお祝いを吹き込んだ。離婚後5年半経ったから、40歳だった彼女も46歳になる。 去年の5月、次女の誕…
花田清輝訳・編「カフカ小品集」にも採択された一篇(全文)。旧約聖書が題材だが、神の関与がなくても人間の企ては混乱と闘争、破滅への願望を招く様を簡潔に描いている。 * 『町の紋章』 バビロンの塔の建立は、初めはうまくいっていた。うまく行き過ぎたく…
スラップ・ハッピーは1972年にドイツでデビューした男女3人組の実験ポップ・グループ。デビュー作(197・画像2)と次作(1973・画像3)をドイツの前衛バンド、ファウストのバックで制作したが、第二作はレコード会社の発売拒否にあい80年まで未発表になる。 彼ら…
今回はやや長いので、2/3ほどに圧縮した。傑作。 * 『掟の門』 掟の門前には一人の番人が立っていた。田舎から来た男がこの番人を訪ねて、門の中へ通してほしいと頼んだ。だが番人は、今は駄目だ、と言う。男は考え込み、やがて、後になれば通してくれるのか…
「きみと世界の戦いでは」とフランツ・カフカ(1883-1924)は言う、「世界に加担せよ」。カフカのアフォリズムの中でもこれほど解釈し難いものはない。その主な原因は、このアフォリズムが一文だけで完結しておらず、その断片性によって挑発的な解釈可能性を拡…
今回はエッセイ的な3篇。 * 『諦めが肝心』 朝早く、人影もない街を、私は駅へ向って歩いていた。時計を教会の塔の時計に合わせてみると思ったよりだいぶ遅いことが判ったので、道を急ぐことにした。ところが、時計の違いに気づいて気が動転してしまい、道が…
○コメントと断片より (1)ルシファーズ・フレンドはスコーピオンズ以前のドイツNo.1プログレ=ハード・バンドです。70年ですからイントロはゼップのパロディでしょう。こんなに早い時期にロニー・ジェイムズ・ディオ在籍時のレインボーのスタイルに達している…
筆者がこの「フランツ・カフカ小品集」を思い立ったのは花田清輝訳・編「カフカ小品集」(1950年・謄写版)という小冊子による。収録作品は『橋』『プロメトイス』『人魚の沈黙』『バケツ乗り』『町の紋章』『寓話について』の6篇だが、敗戦後5年の日本でカフ…
まやさんに「週に一回の洗濯ですか!?」と呆れられたほど療養生活のひとり暮しでは洗濯物が出ないのだが、おかげでTシャツをカビさせてしまった。リサイクル店で200円で買って一度しか袖を通していない。秋冬に下着に着るにはいいだろう、というかそれしかな…
遺稿集「ある戦いの描写」は長短さまざまな作品で成り立っており、「変身」や三大長編とも異なる可能性を感じさせる。 * 『出発』 私は厩から馬を曳いてくるように命じた。馬丁は私の言うことが判らなかった。私は自分で厩へ出向いて馬に鞍を置くと、ひらり…
○コメントと断片より (1)後にゴダイゴで活躍する浅野孝巳ははっぴいえんどのギタリスト候補でしたが、細野の「レコード会社のオーナーになるバンドにしよう」という誘いにコイツ馬鹿じゃないのか、と一蹴したそうです。 (2)成毛語録には大胆な英米崇拝・日本…
今回も生前刊行の唯一の小品集「観察」1913からエッセイともスケッチともつかない3篇を上げた。この3篇は同一のテーマを断片的に変奏したものと思える。作者の意に反して没後発表された三大長編「アメリカ(失踪者)」「審判(訴訟)」「城」も、生前刊行の短編…