人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#小説

続(3)・江戸川乱歩の功績と大罪

「江戸川乱歩の功績と大罪」は今回が最終回。これが最後だから乱歩の30年以上におよぶ作品歴を要約してみます。 まず初期はあっさりしたトリック中心の短篇時代。デビュー作「二銭銅貨」、明智小五郎初登場「神楽坂の怪事件」、谷崎潤一郎~宇野浩二的な「屋…

どす黒い恋人

(場所・階段教室。生徒の入りは三割弱。設置を学生に頼んで、馴れぬパソコンと格闘中) …どうもプロジェクターの調子がよくないが、みなさん見えますか?今回は西洋の近代文化における「ファム・ファタール」とはなにかを(黒板にFemme Fataleと大書きする)解…

続(2)・江戸川乱歩の功績と大罪

乱歩の記事にジャズのアルバム・ジャケットを掲載したのは理由がある。人気バリトン・サックス奏者ジェリー・マリガンがビートルズやディランの曲を取り上げた作品で、タイトルは「イフ・ユー・キャント・ビート・ゼム、ジョイン・ゼム」(「勝ち目がないなら…

続(1)・江戸川乱歩の功績と大罪

乱歩のイメージ戦略は近年で言えば松任谷由実、矢沢永吉といったポピュラー歌手を思わせるもので、これは成長期にあった日本のモダニズム=都市志向と踵をあわせたものでした。これも前回比較したヴァン・ダインと同様です。 ヴァン・ダインはニューヨークの…

(再録/2) 江戸川乱歩の功績と大罪

前回の記事では江戸川乱歩(1894-1965)の功績と大罪についてまとめから入っていきました。 「乱歩が亡くなった時、関係者だれもが胸を撫で下ろした、と書いたのは乱歩の抜擢で探偵小説出版社「宝石社」から「日本版ヒッチコック・マガジン」編集長に就任した…

(再録/1) 江戸川乱歩の功績と大罪

ぼくも「怪人二十面相」シリーズ、というかポプラ社の少年少女向け江戸川乱歩(1894-1965)全集が小学校中学年の愛読書で、図書室・図書館から借りて全巻読破したものです。乱歩が亡くなった時、関係者みんなが胸を撫で下ろした、とそのひとりが書いています。…

夏目漱石「行人」

(i) 今回は夏目漱石の長篇小説の中でも最も難解で退屈な失敗作のひとつ(ひとつ、というのは、初期の数作を除いて漱石作品は賛否両論かまびすしいからだ)、と見なされることの多い「行人」1912-1913(大正元年-二年)を参看してみたい。次々作「こころ」と共に…

『桜の樹の下には』

梶井基次郎(1901-1932)は大坂生まれの作家。生涯病身、永年の結核療養の末に早逝。独身、無職。著作は短編集「檸檬」一冊。没後に習作・日記・書簡を集めた全集が4次に渡って刊行され、古典的作家の評価は揺るぎない。『桜の樹の下には』は1928年発表の小品…

太宰治と呼ばれて(笑)

ぼくは太宰治は全集買って全作品読んだとはいえ、愛読したとはいえません(横光利一と堀辰雄は批判的に、梶井基次郎と坂口安吾は共感を持って愛読しました)。ですが具体的に作品から指摘(ですよね?)されると、もちろんぼくは病気療養中の廃業ちんぴらライタ…

三島由紀夫について(上)

平凡ですが、頭が良すぎて気の毒だった人だと思っています。すべてにおいて自己の理想像をまっとうしようとしたら疲れちゃいますよ。村上春樹が三島には芸術家の感受性に対する特権意識がある、と批判していましたが、本当はそんなこともなかったと思う。西…

虫垂炎入院日記(10)読書篇

今回は手抜き。麻酔点滴を終えて入院後半に読んだ本はマンガを除けば10冊。前置きもあるし、文字数制限からいって1冊80文字も書けないから撫で斬りだ。1冊の例外を除いてみんな退院患者さんが談話室の本棚に置いていった本だ。つまりこれが世の人の読書の平…

「罪と罰」について

個人的な印象では、離婚時のトラブルで拘置所生活を経験する前と後ではまるで作品の迫真性が違って見えました。作品のテーマ自体は「人は他人の運命を左右できるか(主人の強盗殺人、後半の受刑生活)」でいいと思いますが、主人公にも読者にも最後まで結論は…

ストックトン「女か虎か」

これからご紹介するのはアメリカ本国では中学生ならみんな一度は読む話、ポオの「黒猫」やO.ヘンリーの「最後の一葉」並みに誰もが知る短篇小説とのこと。ならばさぞかし著名作家かと思うのだが、作者はこの一篇のみで名をとどめる凡庸な娯楽小説家だったよ…

「こころ」追補

どうもご感想ありがとうございます。痒いところに手が届くというか、または噛んで含めるようなというか(笑)これで高校生以来のモヤモヤも少しは晴れましたでしょうか?やればマトモな文学論めいた文章も書くんだな、ときっかけをくださってありがとうござい…

補遺「こころ」総論

はい。ご質問承りました。まずは転載させてください。 「自殺の起因となったのは「(女にうつつをぬかして)向上心のない者は馬鹿だ」」という言葉ですよね。当時のインテリには馬鹿という言葉はそれほど屈辱的だったのでしょうか?それとも他に何かの要素があ…

「こころ」総論(訪問者のかたへ)

そうですか。高校の時に読書会でお読みになったんですね。感想は不評でおもしろくない、わからない、わざとらしいの連発だった?ごもっともです。あんな景気の悪い自殺小説、しかも女性の描き方は曖昧だし語り手の青年の性格もつかみどころがない。物語に起…

「こころ」の真相( 下)

リリーちゃんはどこへ行ってしまったのだろう?ぼくも半ノラの猫に屋根を貸してきたが死なれた経験も失踪された経験も多い。 ノラ猫の平均寿命はせいぜい2年という。帰るとアパートの隣の空き地で外傷もなく死んでいたり台所の床で嘔吐して死んでいたりした…

「こころ」の真相(上)

ブログをやってらっしゃる方はご自分でもお書きになっているくらいだから、読書好きの方も相当いらっしゃると思われる。まあ文章などは必要最小限読み書きできれば日常生活に支障はないのだが、遊びというのはルールを周知しているほうが腕も上がるし楽しめ…

江戸川乱歩の功績と大罪(2)

前回の記事では乱歩の功績と罪状について「乱歩が亡くなった時、関係者みんなが胸を撫で下ろした、と関係者のひとりが書いています。性格は貪欲で狡猾、新人潰しばかりか盗作・代作(少年探偵団シリーズでも)とにかく金に汚くプライド高く傲慢で打算的エゴイ…

「ドグラ・マグラ」(3)

一応公約通り「ドグラ・マグラ」とはどんな話か前回の締めくくりでまとめた。だが小説や映画で「ドグラ・マグラ」をすでに知っている人に疑問を持たれても仕方ない。そんな話だったっけ?もっとなにか、別の話だったような気がするけど…。ではどんな話だった…

江戸川乱歩の功績と罪(1)

ぼくも「怪人二十面相」シリーズ、というかポプラ社の少年少女向け江戸川乱歩全集が小学校中学年からの愛読書で、図書室・図書館から借りて全巻読破したものです。乱歩が亡くなった時、関係者みんなが胸を撫で下ろした、と関係者のひとりが書いています。性…

「ドグラ・マグラ」(2)

まず書誌的なことから触れておく、というと前回を読んでいただいた方は「次回はあらすじだったはずでは…?」とイヤな予感がすると思う。ええ、ちゃんとあらすじやります(笑)。だけどこの小説の場合、いわゆる物語(ストーリー)を粗述しても何が起っているのか…

夢野久作「ドグラ・マグラ」序説!?

梗概から入って梗概だけに終るのは読書感想文としては最低の書き方だとされる。そんなの読めばわかる、誰だって書けるというわけで、ノンフィクションなら主題や論述、フィクションなら登場人物や構想について所感を披露するのが正しい読書感想文とされる。…

警句と皮肉(2)

「私たちは運命だと思うの」と結婚を決めたのは妻だった。話し合いもなしに離婚を決めたのも妻だった。 別れた妻は初めて会った時から嘘も隠し事もできない女性で、離婚の間際までそれは続いた。ぼくには一言もなく保健所と警察署に離婚の計画を起てたのは娘…

警句と皮肉(1)

内容は忘れたのに警句じみた一節で印象深い本が結構ある。詩は別格だがなぜか批評より小説が多いのは批評自体警句みたいなものだからだろう。ドイツ系はロジック重視で楽しめないが、どこか不真面目なフランス、度を越して現実的なイギリスでは哲学も冗談す…

死と暴力(2・谷岡ヤスジ)

日々訪問者数が減りつつあるこのブログですが皆さまいかがお過ごしでしょうか。ぼくは午前中歯科医院で月に1度のメンテナンスを受けてきて気持ちよかった(いずれ書くが、ぼくは42歳にして全歯を失ったがかろうじて歯茎は残っていたので32本全てを義歯にする…

死と暴力(1)

ラーメン屋の戸を開けると、人が倒れていた。ぼくより少し年上の中年男性と女性店員が介抱していた。大丈夫ですか?声は聞こえますか?倒れていたのはお婆さんだった。店はお昼時で9分の客入りだったが静まりかえっていた。 「何か役にたてることはありませ…

男としてのわが人生

もう40年前の話。 小学1年生(ぼく)と高校1年生(せっちゃん)にどんな肉体関係があったのだろうか?お向かいのせっちゃんは毎日学校帰りにぼくを誘いにきた。 「かずちゃん、一緒にうちのお風呂に入ろう?」 母も賛成だった。ぼくの弟はまだ2歳で目が離せない…

2010年のエイプリルフール(2)

「高橋さんは昭和何年生まれですか?」 と桂君。 「46年です」「46年!おい塩ちゃん、君は42年生まれだよな」「そうですよ」(と隣のテーブルから)。 桂君(すでに塩ちゃんを無視)「じゃあまだ30代?」「38です」「29でも通じますよ。いや25、6でも通じる」「(笑…

2010年のエイプリルフール(1)

入院から一ヶ月になる。連れだってデイルームに向かうとルームメイトの桂君が「今日はエイプリルフールだな」と言った。ぼくは先に女性たちが朝食の席に就いているテーブルで自分の席に掛けて、 「みなさんとの食事もこれが最後です。突然退院が決まりました…