#その他文学
渋沢孝輔詩集『漆あるいは水晶狂い』 昭和44年(1969年)10月・思潮社刊 「弾道学」 渋沢孝輔叫ぶことは易しい叫びに すべての日と夜とを載せることは難かしい 凍原から滑り落ちるわるい笑い わるい波わるい泡 波さわぐ海のうえの半睡の島 遙かなる島 半分の島…
吉増剛造詩集『黄金詩篇』 昭和45年(1970年)3月・思潮社刊 現役詩人のなかで巨匠格にしてもっとも旺盛な活動を続けているのが吉増剛造(1939-・東京生れ)で、国際的評価も高く、もし次のノーベル文学賞が日本の詩人から選出されるなら最大の候補と目されてい…
『岡田隆彦詩集成』 令和2年(2020年)4月1日・響文社刊 「史乃命」 岡田隆彦喚びかける よびいれる 入りこむ。 しの。 吃るおれ 人間がひとりの女に こころの地平線を旋回して迫っていくとき、 ふくよかな、まとまらぬももいろの運動は 祖霊となって とうに …
清岡卓行詩集『氷った焔』 昭和34年(1959年)2月・書肆ユリイカ刊 「愉快なシネカメラ」 清岡卓行かれは目をとじて地図にピストルをぶっぱなし 穴のあいた都会の穴の中で暮す かれは朝のレストランで自分の食事を忘れ 近くの席の ひとりで悲しんでいる女の 口…
高橋睦郎詩集『薔薇の木・にせの恋人たち』 昭和39年(1964年)・現代詩工房刊 後年は古今東西の古典に通じた学匠詩人の風貌を帯び、清岡卓行、那珂太郎、飯島耕一、大岡信、入沢康夫らの逝去を継いで今では芸術院会員の現役長老詩人となりましたが、高橋睦郎(…
那珂太郎詩集『音楽』 昭和40年(1965年)7月・思潮社刊 飯島耕一詩集『他人の空』以降ご紹介している戦後詩の第二世代以降の詩人は主に詩誌「ユリイカ」に拠った詩人で、他にも安東次男、大岡信、川崎洋らがおり、吉岡実、岩田宏らも「ユリイカ」に拠った詩人…
入沢康夫詩集『倖せそれとも不倖せ』 昭和30年(1955年)6月・書肆ユリイカ刊 日本の敗戦後の現代詩は昭和20年代までは戦前・戦中に自己形成した世代がデビューした時期であり、純粋な戦後世代の登場は昭和30年(1955年)以降になります。その第一人者が谷川俊太…
清岡卓行詩集『氷った焔』 昭和34年(1959年)2月・書肆ユリイカ刊 今回ご紹介するのは戦後の恋愛詩のなかで最高の一篇と賞される作品です。戦後俳句の森澄雄の代表句、除夜の妻白鳥のごと湯浴びせり (句集『雪礫』昭和24年=1949年) のように奥さんを詠ったも…
飯島耕一詩集『他人の空』 昭和28年(1953年)12月15日・書肆ユリイカ刊 鮎川信夫に代表される詩誌「荒地」の詩人たちを戦後詩の第1世代とすれば、戦後詩の第2世代というべき作風を見事に結晶させたのは飯島耕一(1930-2013)の第1詩集『他人の空』で、早熟だっ…
西脇順三郎(明治17年=1894年生~昭和57年=1982年没) 西脇順三郎(明治17年=1894年生~昭和57年=1982年没)が初めて日本語詩に着手したのは應義塾大学英文学科教授に就任した大正15年(1926年)4月以降のことで、大正15年7月の「三田文学」に4篇同時掲載され…
西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「馥郁タル火夫」 西脇順三郎 ダビデの職分と彼の宝石とはアドーニスと莢豆との間を通り無限の消滅に急ぐ。故に一般に東方より来りし博士達に椅りかゝりて如何に滑らかなる没食子が戯れるかを見よ! 集合…
西脇順三郎第1詩集『Ambarvalia』(椎の木社・昭和8年=1933年9月) 「薔薇物語」 西脇順三郎ヂオンと別れたのは十年前の昼であつた 十月僕は大学に行くことになつて ヂオンは地獄へ行つた 霧のかゝつてゐる倫敦の中を二人が走つた ブリテン博物館の屋根へのぼ…
西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「風のバラ」 西脇順三郎帽子を浅くかむって 拉典人類の道路を歩く 樹木の葉の下と樹木の葉の上を混沌として気が小さくなつてしまふ瞳孔の中に 激烈に繁殖するフユウシアの花を見よ あの巴里の青年は 縞の…
西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「林檎と蛇」 西脇順三郎わが魂の毛皮はクスグツたいマントを着た おれの影は路傍に痰を注ぐ 延命菊の中にあるおれの影は実に貧弱である汽車の中で一人の商売人は 柔かにねむるまで自分の家(ウチ)にゐるや…
西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「内面的に深き日記」 西脇順三郎一つの新鮮な自転車がある 一個の伊皿子人(イサラゴジン)が石けんの仲買人になつた 柔軟なさうして動脈のある斑點のあるさうして これを広告するがためにカネをたゝく チ…
西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「世界開闢説」 西脇順三郎科学教室の背後に 一個のタリポットの樹が音響を発することなく成長してゐる 白墨及び玉葱黍の髪が振動する 夜中の様に もろ\/の泉が沸騰してゐる 人は皆我が魂もあんなでない…
(大正10年、東京高等師範学校卒業頃の八木重吉、満23歳) (手稿小詩集「ことば(大正14年6月7日)」より「あかんぼもよびな」直筆稿) 「明日」 八木重吉まづ明日も目を醒まそう 誰れがさきにめをさましても ほかの者を皆起すのだ 眼がハッキリとさめて気持ちも…
三富朽葉(明治22年=1889年8月14日生~大正6年作=1917年8月2日没) 『三富朽葉詩集』第一書房・大正15年(1926年)10月15日刊 「水のほとりに」 三富朽葉水の辺(ほと)りに零れる 響ない真昼の樹魂(こだま)。物のおもひの降り注ぐ はてしなさ。充ちて消えゆく …
(伊東静雄明治39年=1906年生~昭和28年=1953年没>) 「水中花」 伊東静雄水中花(すゐちゆうくわ)と言つて夏の夜店に子供達のために売る品がある。木のうすい/\削片を細く圧搾してつくつたものだ。そのまゝでは何の変哲もないのだが、一度水中に投ずればそれ…
立原道造(1914-1939)23歳頃(昭和13年=1938年)、数寄屋橋ミュンヘンにて。 第1詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』に見られる立原道造(大正3年=1914年7月30日生~昭和14年=1939年3月29日没)の詩の特色については、前回までで検討してみました。最後に、この詩集の…
立原道造(1914-1939)23歳頃(昭和13年=1938年)、数寄屋橋ミュンヘンにて。 はじめてのものに ささやかな地異は そのかたみに 灰を降らした この村に ひとしきり 灰はかなしい追憶のやうに 音立てて 樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた その夜 月は明かつた…
立原道造(1914-1939)23歳頃(昭和13年=1938年)、数寄屋橋ミュンヘンにて。 以前に立原道造(大正3年=1914年7月30日生~昭和14年=1939年3月29日没)の第1詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』(昭和12年=1937年5月私家版)は全編を一度にご紹介しました。この詩集はソ…
[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 『小野十三郎著作集』全三巻 平成2年(1990年)9月・12月・平成3年2月・筑摩書房刊、第一巻所収 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「城…
『小野十三郎著作集』全三巻 平成2年(1990年)9月・12月・平成3年2月・筑摩書房刊、第一巻所収 [ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「一…
[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「古い春」 小野十三郎柳が芽をふき 菜種の花が咲き 鶏がゴミ溜を漁つてゐる。 高架線の向ふに淡霞…
[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「北陸海岸」 小野十三郎鳥屋町 三本松 住友製鋼や 汽車製造所裏の だだつぴろい埋立地を 砂塵をあ…
[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「白い炎」 小野十三郎風は強く 泥濘(どぶ)川に薄氷(はくへう)浮き 十三年春の天球は 火を噴いて …
小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 [ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 「冬の夜の詩」 小野十三郎 自分のことは忘れよ、 各自の生活を励め……魯迅夜更けて 公園を通り抜け…
[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「早春」 小野十三郎ひどい風だな。呼吸がつまりさうだ。 あんなに凍つてるよ。鳥なんか一羽もゐない…
[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 第3詩集『古き世界の上に』 昭和9年(1934年)4月15日・解放文化聨盟出版部(植村諦聞)刊 「いたるところの決別」 小野十三郎 俺は友が友をそむき去る日を見た 相手の腕は折れ額に血潮のにじみ出るのを見た 俺は又一枚…