人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#読書

山本陽子「遥るかする、するするながらIII」(「現代詩手帖」昭和45年=1970年より)

「現代詩手帖」昭和45年=1970年10月号 (山本陽子昭和18年=1943年生~昭和54年=1984年没>) 遥るかする、するするながらIII 山本陽子 遥るかする 純めみ、くるっく/くるっく/くるっくぱちり、とおとおみひらきとおり むく/ふくらみとおりながら、 わおみひ…

石川啄木と『現代詩人全集』 (昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)(後編)

(石川啄木明治19年=1886年生~明治44年=1912年没>) ここ数回に渡って古色蒼然たる『現代詩人全集』(新潮社・昭和4年~5年/1929年~1930年)をまず俎上に上げたのは、当時の日本現代詩の過渡期の詩人をご紹介したかったかです。昭和4年(1929年)といえば前年に…

石川啄木と『現代詩人全集』 (昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)(前編)

(石川啄木明治19年=1886年生~明治44年=1912年没>) 隱沼 石川啄木 夕影しづかに番(つがひ)の白鷺(しらさぎ)下り、 槇(まき)の葉枯れたる樹下(こした)の隱沼(こもりぬ)にて、 あこがれ歌ふよ。――『その昔(かみ)、よろこび、そは 朝明(あさあけ)、光の搖籃(ゆ…

横瀬夜雨と『現代詩人全集』(昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)

(横瀬夜雨明治11年=1878年生~昭和9年=1934年没>) 涙 横瀬夜雨 おもひしずけきかりねにも ゆめだにみればやるせなく なみだにぬるゝわがそでを からんとのらすきみもがな ひとよふけゆくなかぞらに かたわれづきのてれるみて はかなきかげのうらめしく たも…

河井醉茗・日夏耿之介と『現代詩人全集』(昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)

(河井醉茗) 稚児の夢 河井醉茗 そらに きみの こゑを きけり むねと むねと かげと かげと そらに あひて こゑを きけり たびの ひとの みては かへる ふるき かべに うたを のこし きみと ともに そらを あゆむ ふかき もやは ゆくに ひらけ うみは とほし …

金子光晴「おっとせい」「洗面器」(詩集『鮫』昭和12年・詩集『女たちへのエレジー』昭和24年より)

(金子光晴明治28年=1895年生~昭和50年=1975年没>) 金子光晴詩集『鮫』人民社・昭和12年8月=1937年刊 おっとせい 金子光晴 一 そのいきの臭えこと。 口からむんと蒸れる、 そのせなかがぬれて、はか穴のふちのやうにぬらぬらしていること。 虚無をおぼえる…

高村光太郎「根付の国」「淫心」(詩集『道程』大正3年=1914年刊より)

高村光太郎詩集『道程』・大正3年10月(1914年)抒情詩社刊 (明治44年、自宅アトリエにて、29歳の高村光太郎) 根付の国 高村 光太郎 頬骨が出て、唇が厚くて、眼が三角で、名人三五郎の彫つた根付(ねつけ)の様な顔をして、 魂をぬかれた様にぽかんとして 自分…

室生犀星「舌」(詩集『昨日いらつしつて下さい』昭和34年=1959年8月刊より)

(室生犀星明治22年=1889年生~昭和37年=1962年没>) 舌 室生犀星 みづうみなぞ眼にはいらない、 景色は耳の上に つぶれゆがんでゐる、 舌といふものは おさかなみたいね、 好きなやうに泳ぐわね。(「婦人公論」昭和30年=1955年5月号、エッセイ集『続女ひと』…

中西梅花「出放題」(『新體梅花詩集』明治24年=1891年刊より)

『新體梅花詩集』明治24年(1891年)3月10日・博文館刊。 四六判・序文22頁、目次4頁、本文104頁、跋2頁。(ダストジャケット・本体表紙) 日本の現代詩の起点は北村透谷(明治元年=1868年生~明治27年=1894年)5月16日縊死自殺・享年25歳)の存在が真っ先に上げ…

氷見敦子「消滅してゆくからだ」(『氷見敦子詩集』昭和61年=1986年刊より)

(氷見敦子) 『氷見敦子全集』思潮社・平成3年=1991年10月6日刊 消滅してゆくからだ 氷見敦子 眠りについた男の腕のなかから 昨日よりもさらに深い夢の奥へ入っていく その女のからだが水の通路になっていて 水音が聞こえる、どこかで 水道の蛇口が大きく開…

祝算之助「町医」(詩集『島』昭和22年=1947年刊より)

*町 医 祝 算之助 夜とともに、町医者はやつてきた。家来をつれて。その家来は、たぶん同じ猟ずきな仲間ででもあろう。 ちいさな部屋のなかは、黄いろい絵具が、べたべたちらかっている。私はどのようにも、片ずけきれないのだ。 そのまんなかに、金魚(きん…

二つの「道程」~高村光太郎「道程」(大正3年=1914年)

(明治44年=1911年・28歳の高村光太郎) 詩集 道程 (抒情詩社・大正3年10月25日刊) 「道 程」 高 村 光 太 郎 僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る ああ、自然よ 父よ 僕を一人立ちにした広大な父よ 僕から目を離さないで守る事をせよ 常に父の気魄を僕に…

高村光太郎「母をおもふ」(昭和2年=1927年)

(岩手移住時代の高村光太郎) 母をおもふ 高村光太郎 夜中に目をさましてかじりついた あのむつとするふところの中のお乳。「阿父(おとう)さんと阿母(おかあ)さんとどつちが好き」と 夕暮の背中の上でよくきかれたあの路次口。鑿(のみ)で怪我をしたおれのうし…

小野十三郎「蓮のうてな」( 詩集『拒絶の木』昭和49年=1974年刊より)

[ 小野十三郎(1903-1996)近影、創元社『全詩集大成・現代日本詩人全集10』昭和29年('54年)12月刊より ] 詩集『拒絶の木』思潮社・昭和49年(1974年)5月1日刊 昭和50年(1975年)2月・読売文学賞受賞 『小野十三郎著作集』第二巻・筑摩書房(平成2年=1990年12月…

七ひき目の小やぎが助かったわけ(後編)

(19世紀末のドイツ版グリム童話本挿絵より) 前回の前編で引用した節までにほぼ、詩人・谷川雁によるグリム童話「おおかみと七ひきの小やぎ」についての1980年代初頭の考察エッセイ「時間の城にかくれた小やぎ」は、結論にまでたどり着いています。あとに続く…

七ひき目の小やぎが助かったわけ(前編)

(19世紀末のドイツ版グリム童話本挿絵より) 今回は1960年代の終わりまでは政治活動家として活動し、1970年代以降には児童教育家に転じた、詩人の谷川雁(1923-1995)の、グリム童話「おおかみと七ひきの小やぎ」についての考察エッセイ「時間の城にかくれた小…

小野十三郎「フォークにスパゲッティをからませるとき」(詩集『いま いるところ』昭和64年=1989年刊より)

[ 小野十三郎(1903-1996)近影 ] (82歳(1985年)) (51歳(1954年)) (23歳(1926年)) 詩集『いま いるところ』 浮遊社・昭和64年(1989年)7月7日刊 『小野十三郎著作集』全三巻・筑摩書房(平成2年=1990年)9月・12月・平成3年=1991年2月刊) 『小野十三郎著作集』…

生理になった男

(アニメ「戦×恋(ヴァルラヴ)」2019の一場面より。 下乳を洗うヒロイン。巨乳は大変ですねえ(^^;) たしか記録的な猛暑だった7、8年ほど前の夏でした。私は双極性障害(1型・障害等級2級)でメンタル・クリニックに定期通院していますが、双極性障害(いわゆる躁…

ゴッドフリート・ベン詩集『死体検死所 (モルグ)』(1912年刊)より

ゴッドフリート・ベン詩集『死体検死所(モルグ)とその他の詩』Morgue und andere Gedichte (上から1924年再版・1912年3月初版本・2017年最新普及版) 死体検死所(モルグ)・I~V I・小さなえぞぎく(アスター) 溺死したビールの運送屋の男が解剖机に持ち上げら…

創作童話『NAGISAの国のアリス』より冒頭5話

(1) 第一章。 10歳のアリスはお姉さんのロリーナ(13歳)と妹のエディス(8歳)といっしょに川のほとりに座り、ドジソン先生のお話を聞くのが好きでした。ドジソン先生は当年とって30歳、男ざかりの数学の先生で、年ごろの男性にはよくあることですが同年輩の男…

続・鍋焼きうどん

この冬は鍋焼きうどんで行く、あと数回は書くと宣言してからこれで何度目の作文になるのだろうか。2回目でないのは確かだ、また鍋焼きうどんについて書く、と書いた覚えはあるから。だが最近はついこの間のことほど忘れやすく、忘れてしまって差し支えない昔…

著者近影

これらは『全詩集大成・現代日本詩人全集』(東京創元社1955~1958、序巻+全15巻)収録掲載の著者近影から複写した。当時物故詩人は本人の写真の選択の意志はないし、撮り下ろしでもないから、全集刊行時存命の著者に限った。まずは村野四郎(1901~1975)。 思…

ピーナッツ畑でつかまえて(3)

チャーリーよりも早くルーシーの姿に気づいたとはいえ、スヌーピーは視力が弱く普段はコンタクトレンズを着けてました。今はたまたまレンズを着用し、またチャーリーの話から事態は予測できましたが、もしコンタクト着用でなかったら彼はルーシー以外の人影…

『ムーミン谷(集成版)に関するお詫び

このブログの運営者はパソコンを所持していませんので、先月九月上旬に機種変更するまではフィーチャーフォン(ガラケー)用のモバイル・サイトでブログを作成していました。従来型携帯電話、いわゆるガラケーでは使用できる機能は非常に限られており、たとえ…

ドクター・ストップ!

訪問看護の精神保健福祉士、コイケさんに「ブログ一日二本はまだスマホ慣れしていない今は過活動だから、しばらく一日一本までにしてみてください」(大略)と指示されてしまった。いわゆるガラケーでやっていた頃は制限文字数1000字だったから一回1000字未満…

盲腸炎入院日記2

(前回から続く) 2011年8月18日(木)入院から11日目。 朝食=食パン、マーマレード・ジャム、ミートボールのケチャップ煮、コンソメスープ、フルーツ(洋梨缶)、牛乳 昼食=七分粥、豚肉と野菜の中華風炒め、ひじきの煮付け、ブロッコリサラダ、わかめスープ 夕…

盲腸炎入院日記1

(この入院日記は入院病棟のメモ用紙に書かれ、つい最近まで本棚に紛れ込んでいた。無難な内容だしせっかくなので掲載します。) 天候=ずっと晴れ(たぶん) 2011年8月8日(月) 午後一時頃緊急搬送即入院~13日(土)まで点滴のみ(消炎・鎮痛剤、栄養点滴)、意識な…

アンドレ・ジッド(22)総合文人としてのジッド1

まずは、アンドレ・ジッド(1869~1951)の小説以外の著作年表を再掲載します。年表だけでも興味深いものです。 1891年(22歳)『ブルターニュの旅より』紀行 1898年(29歳)『フィロクテテス』戯曲 1901年(32歳)『カンドオル王』戯曲 1903年(34歳)『サユウル』戯…

マルカム・ラウリー『火山の下』(1947)1

マルカム・ラウリー(Malcolm Lowry,1909~1957)は生前には二冊の長編小説、遺稿に未発表長編、未完成長編、短編集、詩集、書簡集が各一冊ありますが、そのうち一般に知られているのは代表作の長編小説『火山の下』(新訳2010年刊)で、1947年に原著が刊行され…

アニメ『花物語』一挙放映ネタバレ編4

肉体に呪いを取り込んだ沼地蝋花に敗北を喫したヒロイン神原駿河は、帰り道で偶然、先輩の阿良々木暦と出会います。暦(男子)は、この「物語」シリーズを通した狂言回し役で、彼が関わってきたこれまでのヒロインが体験してきた怪異談が「物語」シリーズであ…